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よろず屋の猫

『埋葬』 リンダ・フェアスタイン著

リンダ・フェアスタインのアレックス・クーパー シリーズの最新作、第七作目を読みましたので、感想です。

前作でちょっと話が大きくなりすぎて、個人的には今一つ面白みを感じなかったのですが、今回はマンハッタンの地で繰り広げられています。




四年前にマンハッタンを震え上がらせていたシルクストッキング強姦魔が再び事件を起こした。
今度は被害者に傷を負わせて、犯行がエスカレートしている。
そしてまた一件犯行が、今度は殺人に、しかし模倣犯の仕業だった。

一方、かつてエドガー・アラン・ポーも住んだ、古いアパートの地下室の壁から白骨死体が見つかる。
捜査により、二十五年前に生きながら埋められた女性と判明。
アレックスのチームは、捜査を進める内に、ポーに関係があるのではないかと思う。



このシリーズの第一作『誤殺』を読んだときは驚きました。
主人公のアレックスは金髪美人の、マンハッタン地方検察庁で犯罪訴追を扱う検事です。
お金持ちのお嬢様で、マンハッタンのドアマン付きのアパートメントに住み、島には別荘も持っています。
社交生活も華やかで、観劇、コンサートといろいろ楽しんでいます。
しかし仕事は極めて有能、また父親に“社会に役立つ仕事を”と言われて育っているので、正義感が強く、めったなことではへこたれません。

推理小説の主人公にこう言う女性が出てきたことは、私にとって新鮮でした。
それまでもお嬢様が事件に巻き込まれてという話はありましたが、仕事として事件に取り組む組織内の人間で、というのは当時では珍しかったと思います。

主人公がそんな女性だとロマンス系か?とも思ったりしますが、このシリーズ第四作『妄執』ではネロ・ウルフ賞を受賞している、読み応えのあるミステリーです。

さて、そんなアレックスを支えるのが、マイク・チャップマン、ニューヨーク市警殺人課の刑事です。
父親が刑事だった彼は大学卒業後、警察学校に入り、刑事に。
なかなかどうして博識です。
アレックスは前作までの恋人と別れており、現在の生活の寂しさをマイクがからかうのですが、珍しくアレックスにやり返されると、真っ赤になってしまいます。
この辺の人物設定がツボをおさえているなぁ、と思ってしまう。

もう一人、市警特殊被害者課の刑事のマーサー・チャップマン。
黒人で一級刑事と言うところが有能さを物語っています。
この『埋葬』では子供が一人います。
思いやりのある態度で犯罪被害者にあたる好人物です。

この三人が性犯罪の、マイクが絡むと言う事はそれに伴う殺人事件を捜査していくわけです。

毎回、事件に関連する事柄の薀蓄が面白いのですが、今回は“エドガー・アラン・ポー”。
私はポーは学生時代に読んだきりで、正直ストーリーも覚えていないのですが、“探偵小説やホラーの元祖”と言うイメージ。
あとは落ち込んだ気分の時に読みたくないなぁ、と言う印象があります。
そのポーの小説に出てくる「生きながら埋められる」を、そのまま再現したような事件に、アレックスたちはポーに詳しい人たちを訊ねながら、真実に近付いていきます。
事件とポーと言う人物像が、読み進んでいくうちに徐々に分かっていくのが面白いです。

シリーズ初期の頃、アレックスにはそのステータスにあった恋人がいて、マイクは高嶺の花と思いつつも淡い気持ちを持っている、またアレックスもマイクを気にしている、と言う感じがありました。
けれどシリーズが進むと両方供にしっかりと恋人ができ、すっかり親友?な二人にちょっと寂しさを感じたりしました。
シリーズも長く続けるとなると、登場人物たちの生活の変化も描かれ、恋人達、または夫婦も別離と言うパターンは少なくないので、同じ捜査にあたる関係で、アレックスとマイクがそうなってしまうのも悲しいし、仕方がないかとも思ってました。

この『埋葬』ではアレックスは恋人なし、マイクには真剣な恋人がいます。
しかし二人の間はこの先、また変化していくのかも知れないと思わせるラストでした。


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